2010年03月14日の記事 (1/1)

となりの客

少し前の話だが、京都の知る人ぞ知る系日本料理店のカウンターに座った時のこと。
ぼくはその店は初めてで、緊張しつつも笑顔の素敵な着物女性に癒され大将の包丁に見とれ静かに食事をしていた。と、しばらくしてお一人様の男性客が入店。ぼくの横に案内される。その日は普段よりも余計に客を入れたのか(というかその一人客のために席を一つ増やしたのか)、カウンターはツメツメで横のおっさんの体の一部が常にぼくに当たっているという、なんともむず痒い不快感(ま、お互い様かとも思うけど)。

ただ、そのおっさんは店には相当なじみのようで、店主をご主人とか大将ではなく名字で呼び、若いスタッフにも「おぅ」みたいな馴れ馴れしい挨拶を交わす。そして席に着くと同時に「今日は琵琶湖からもろこが入りましたよ」と大将から声がかかり「おっ、わざわざ新幹線で来たかいがあったねえ」とおっさんも満面の笑顔だ。おっさんは、幾らのコースを食べているのか不明だが(知りたかったな)、当然ながら、ぼくを含めた他の客とは全く違う料理が出る。何度か同じような風体の皿もあるものの、微妙に高級食材やオリジナルの調味料等をトッピングして特別感を出している。

おっさんは「今月はぎりぎりもろこに間に合ったか。じゃ、来月は筍、そして稚鮎、次に鱧か・・・。楽しみだねえ」と、いかにも旬の日本料理を知っている通ぶり。大将も「東京はねえ、客も店もせっかちなのか、どんどん旬を早めちゃうんだよね。それじゃ季節なんてあらしまへん」などと応える。さらに「先日東京のお客に、ウマイ鮨屋があるっていうんで連れられたんですが、そこがイマイチ。店の名前は言えませんけどね(話の前後から「海味」かと想定)。いちいち鮨を出すたびに、どこどこ産のなんとかって大声で説明する。だいたい最近の客は例えば大間のマグロとか言っても、高く売れるからそこに集められているだけなのは知ってますよね。そんな説明するヒマがあるんやったら、もうチョット値段を安くせえって(笑」。と、常連おっさんも東京の客ではないのか、東京をボロカスに言っている(ちなみに京都の店を予約する際は、ぼくは意識的に実家の大阪の電話番号を言うことが多い)。

ところで、もっと悲しいのはぼくのとなりの客。
まず箸の持ち方がヒドすぎる。最初指に障害のある方かと思ったぐらいだ。そして、ずるずるとお椀をすする。肩肘をついてお造りをなめるように口に運ぶ。くちゃくちゃと音を立てて咀嚼・・・。店内がたまたまシーンとなった瞬間などは、おっさんのくちゃくちゃ音だけが店に響いていた。

客単価1万円以上する割烹。そこに特に京都以外から訪れるにまず必要なのは品格ではないだろうか。食いしん坊で旬の食材にも精通し、それを目指して予約する高い目的意識があっても、美しく食事ができないのであれば、そこに座る資格はないとぼくは思うのだが、いかがだろうか。

店も店である。京都というブランドが泣いている。たしなめるまでは難しいかもしれないが、もう少し配席を考慮するとか、おっさんの下品さが他に波及することを抑える方策もあろうかと。ただ、店主は新潟出身らしく代々続く京都の店ではないゆえ、さもありなんかとも思ったが。