パリでのこと

フランスとスペインの国境辺り、バスク地方を旅したときのこと。
ビルバオやサンセバスチャンといったスペイン美食の町を歴訪した後フランス側に抜けて、バイヨンヌの空港からパリへと戻ることにしていた。飛び立った小さな飛行機は、パリのオルリー空港へ到着。機内の狭い通路に乗客が立ち、それぞれの荷物を上の棚から降ろす、いつもながらの風景。こうなると急ごうにも前がつかえて、確実に前から順にしか降りることはできない。

ぼくのすぐ後ろに、一刻も早く降りたいとムズムズしているおばあさんがいた。真っ赤なコートを着て姿勢もよく、いかにもフランス女性といったカッコよさ。お顔は相当しわしわだが60歳半ばぐらいだろうか。
「ムゥー」と、西洋人特有の言葉を発し、いら立ちを隠せない。

赤いコートのおばあさん、トイレでも行きたいのか、電車の時間があるのか。あまり急ぐ理由が思いつかなかったのだが、早足で歩くぼくの横をすり抜け、ひたすら出口を目指し、そのままゲートをくぐる。出迎えやガイドなど、たくさんの人が待っている中に黄色いコートを着たおじいさんがいて、そのおじいさんの胸に、一目散に飛び込んだ。まさに「抱擁」という言葉がふさわしい、硬く熱いハグ。

うわっ、そーだったんだ・・・。
ぼくは小さく感動しながらも、生理現象には勝てずにトイレへと入る。

すっきりした後、同じ方向にとって返したら、出てきたときと寸分変わらない状態で、
二人は抱き合って微動だにせず・・・。赤と黄色のコントラストがぼくの目に激しく焼き付いた。

パリ、だよなあ。