ランチの客

とある土曜日の銀座の割烹。

カウンターと数卓のテーブルがある店内。ぼくたちはテーブルで鍋を囲みカウンターには3名ほどの男性(実は若い力士。この店の店主がかわいがっておられるようだ)。宴もたけなわな時間に、ひょっこりと男女のカップルがドアを開けた。

「あ、いらっしゃい。ご予約は?」と店主。実はこの店は土曜日は休みなのだが、ぼくたちの予約で特別に明けていただいたのだった。

予約してないんですけど・・・。との客の返答にも、店主は愛想よく、そうですか。でもどうぞどうぞ。とカウンターの2席をすすめた。

ちょっとピント外れな感じの若いカップルは、すすめられても座ろうとせず、なんだかもじもじしている。ま、大勢でオッサンが鍋を囲んでおり、カウンター席には3名のデカイ力士も混じっている。確かに威圧感はある。幸か不幸か、ちょうど世間は大相撲の話題で持ちきりだし(といいつつ、そのときのお相撲さんの面々には、「その話題」は大変嫌がられたが)。

突然若い男のほうが意を決したのか「会社が近所で、昼によく唐揚げ定食とか食べに来てるんですけど、ありますか?」と聞く。で、横の彼女らしき女性は、そんなことを聞いても、夜に唐揚げ定食をやっているはずがないよ、違うよ違うよ・・・と小声でサインを送っている。

「いやー、夜は定食はやってないんだよね」と一応すまなさそうに店主は応え、「すみません、間違いました」と、カップルはそそくさと退散した。

その後。
店主は「うちの店では、確かに夜のあまったものとかを使って昼間に定食を出しているよ。でも彼らは、うちの店のことを定食屋と思ったのかなあ。一応ここで25年割烹をやってるねんけどねえ・・・。夜に唐揚げ定食を出すぐらいなら寝てた方がましだよ」と、意外と悲しそうな表情。しばし店には微妙な空気が流れた。


ランチのありがたさを否定するつもりは全くないし、夜に客単価10,000円以上取る割烹で出される食材が昼に回ってくるなら、まさにオトクだ。お店にとっても夜だけで採算はとれるだろうが、食材をムダにしたくない気持ちや、お店の宣伝の意味も込めるだろう。でも、そんなお店の努力を理解せず、夜も同じように唐揚げ定食が食べられると思って来る客の存在って、お店にとってはつらいよなあ。

また、そのような感覚で食べロクなどの参加型評価サイトにて点数がつけられているとするなら、ランチとディナーを同じレベルで採点するシステムには、きちんと反旗を翻さないといけない、と考えてしまった。