消えた海老芋の天ぷら

一ヶ月以上予約の取れない人気の日本料理店「湯島一二一」に行ったときの話。
メンバー4名だったので1階奥の個室に通された。

「湯島一二一」の料理やサービスがどうか、ということについてはまた別の機会に書く(かもしれない)として、今回はその食事の中で起こった、30年の食べ歩き史上初めての珍事。

「湯島一二一」の場合、席にはあらかじめ当日のメニューが名刺大のサイズに折り込んでプリセットされている。テーブルに着いた当初から、メニューの中身というよりはカッコよさで一同盛り上がり、日付も入っているのにプリンタ出力ではなく印刷したようにキレイだと、完成度の高さが話題になった。

で、その日のコースの揚げ物は「山菜と海老芋」。春を先取りした感じだし山菜の天ぷらは大好きなので、少し楽しみにしていた。凌ぎの次に揚げ物ガ来るという記憶があったので、別の料理が運ばれてきたときに、おやっ、順番を替えたかな、と、その程度しか気にしなかった。

で、コースがゴハンの前の牛タンシチューに至るあたりで、一同「山菜と海老芋」がまだ来てないんじゃないか、について言及し始めた。ただその中の一人が、「いや、食べたでしょ」と言い張る。「海老芋を揚げたものにアンがかかっていて黄色の器に入っていたよ」と描写も鮮明だ。ただその彼も、山菜は何だった?と質すと、「それが思い出せないんですよ」と若干あやふや。

ぼくなんかは、最初から順番が替わったのかなと思っているぐらいなので、そんな黄色の器のことはまったく記憶になく、他の3人も、つよく食べたはずと言われるとなあ・・・と自信なさげ。

あっ、そういえば、と、ぼくがiPhoneを取り出す。
実はごく最近、リアルに友人でもあるえりかさんもココを訪問していて、彼女のブログ「FOOD DIARY」に、すばらしい写真が数葉アップされていたことを思い出したのだ。ビジュアルを見たらきっとわかるよね、とiPhoneをの画面をスライドするも、なぜかそのえりかさんの写真も「海老芋と山菜」のみアップされておらず、絶品とのコメントのみ。黄色い器に入ってとか、書いていただいていれば・・・と一同またまた盛り上がる。


結局女将さんに聞いてみることになり、食べたと言い張っていた彼が「海老芋といっしょにいただいた山菜は何でしたっけ?」と実にウマい質問をした。この辺がぼくの自慢の食べ仲間たるスマートさである。

「ハイ、行者ニンニクと・・・」
「わぉ、いただいてませんよぅ」と、言い張った彼も含めて一斉に。
行者ニンニクのような香りの強い山菜の存在を忘れるはずがない。

その後の店主の恐縮ぶりは気の毒なぐらいで、一番そういったことがあってはならないと細心の気配りをされている様子が伝わってきていただけに、残念。

うーん、この「湯島一二一」。人気の高さも異常だし、忙しすぎる。
店のキャパは、カウンター、テーブルに、個室が1階奥と2階に数室。確認できる限りの厨房スペースでは満席だと相当大変だろう。昼間も数量限定でランチを出しているし、夜は二回転の席も見受けた。

その忙しさにまじめに応えようとする気持ちも分かるが、まだまだこれからの若い店主。料理についても、あの価格で出す中身としては東京有数といえど、一つ一つの完成度は、まだまだ将来に余地を残すとも思える。

もっとじっくり客と料理と向き合って、仕事をしてみてはどうですか?。
帰り間際に喉元まで出かかって、結局ひっこめた一言だった。