6軒目のバー

ぼくが東京に移り住んだのは20数年前だが、それ以前は大阪人だったことはよく書いている。で、大阪から東京へはもちろん仕事の転勤で異動したものの、当時から呑み助だったぼくは、東京に住んだらまず行こうと決めていたバーが5軒あった。

今は鮨屋になってしまった「1st BarRadio」、「モーリバー」の毛利氏がおられた「霞ヶ関ガスライト」、今は移転しているが元々はフランス料理店「ロオジエ」の横にあった上田氏の「テンダー」、当時もっとも尖ったバーといわれていた西麻布の「レッドシューズ」。これらはすべて現在移転もしくか存続していないが、湯島の「EST!」だけは今も存続。オーナーバーテンダー渡辺氏のお2人の息子さんが新橋で独立するぐらい時間が経ったが、20数年前の想いを秘めつつ現在まで定期的に訪れている。

いっぽう、ほとんど知己の存在しなかった東京にも、ぼくより一足先に出ていた大阪での遊び仲間が一人いて、そいつが「伊藤、ぜひ覚えておいたらええで」と連れて行ってくれたバーがあった。

結局彼の意図するところで利用することは一度もなかったが、そのバーは渋谷のホテル街に隣接する格好のお口説きポジションにあるのだ。ホイチョイ的に言うなら、やれるバーである。

そこは「BAR松木」。「松木家」というすき焼き店に併設されたウェイティングのような位置ながら、「松木家」オーナーの才覚が冴えるのか、置かれたボトルもバーテンダーもそして内装も、ウェイティングという片手間感などまったく思わせない、それこそ改装前の「ロオジエ」の並びにあった「テンダー」のごとく、その本家を食ってしまうほど渋いバーだった。

さて、渋谷警察最寄りに「石の華」というバーがある。そちらのバーテンダー石垣忍氏は、バー業界の華と呼んでも過言ではないイケメンかつ数多いオリジナルカクテルと受賞歴を持つホープ。その彼も90年代前半この「BAR松木」に在席し研鑽を積んでいる。

結局その友人と男同士で何度か行って以降は寄り付く機会のなかった「BAR松木」だが、ひょんなことから本当に久しぶりに訪問。といっても決して色っぽい話ではない。

昨日、神泉にて大人数で食事をした。すごい人気店で10時を回るというのに次の予約が入っているとのこと。2時間半で追い出されてしまった。その店自体は大満足で不満はないんだけど、やはり飲み足りない・・・。かといって2人や3人ならいざ知らず、この界隈に行ける2軒目はあるかなあと、決め手もなく神泉をさまよった。

その際、食事をしたメンバーに上記のようなことを口走っていた(笑)ところ、うまい具合に「BAR松木」の前にさしかかったので、若い独身男子もいることだしダメもとでのぞくだけのぞいて見るか、とドアを開ける。

と、ぼくの記憶ではカウンターだけの店だったが、なんとちょうどいい丸いテーブルがあり、そこにいた客が今まさに席を立とうとしていて人数分の席をゲット。やはり飲食にはツキを持っているなあと自画自賛。

ところで。
そんなぼくの思い出を語りながら「BAR松木」に入ったんだけど、その日ほくたち以外はすべて男性の2人客。団体のぼくたちに負けることのないボリュームでスポーツバーのごとく語り合っていた。

カップルでしっとりと訪れるべきやれるバーと力説したぼくの前フリには、全く説得力がなっかったことも付け加えておかないとなあ。