カンテサンス

「カンテサンス」のシェフ岸田さん、シェフソムリエ市村さんと食事をする機会があった。

もちろん、お店側の方との付き合いには大変疎いぼくの主催ではなく、声をかけてくださる方がいて参加できた、というものである。ありがとうございました。

「カンテサンス」ほど予約の取れない店になってしまうと、シェフもマネージャーもソムリエも、とても縁遠い存在で日常お目にかかることなどかなわない気もするのだが、会ってみればもちろん料理やワインを愛するノーマルでステキな青年。特にシェフソムリエの市村さんはぼくと生まれた町まで同じという同郷と分かり、かなりの親近感&大阪ネタで盛り上がる。でもやっばり、行き着くところは「カンテサンス」が抱える様々な悩みどころに話の花が咲いた。

レストランが、客からいただいた予約の電話を満席を理由に断る、というのは、自分の立場に置き換えると「伊藤さんにぜひ仕事を頼みたい。伊藤さんのいい値を払いましょう」と言われるお客様に対し、忙しいのでできませんと、断ることと同様である。ビジネスマンになって25年以上、たったの一度もそんな経験はない。それを「カンテサンス」では毎日何回となく繰り返しているのだ。つらすぎるよね。

もちろんぼくの場合は1日24時間をフルに使おうと思えば不可能ではない。いっぽう食事は「午前2時にきてください」というわけにはいかず、1日に2度しかチャンスがないというのも、さらにキビシイところだろう。

「カンテサンス」では、どうしたら一人でも多くのお客様に店に来てもらえるか、予約が取りやすくなるか、何度も何度もみんなで真剣に悩み、ミーティングをして知恵を出し合っているそうだ。その場でも「伊藤さん、なにかいい方法はご存じないですか」と質されたので、当日予約しかできないようにした、鮨の「しみづ」や「オッジダルマット」の例もあげたが、食材調達の関係で「カンテサンス」ではそれは全く不可能。あたりまえか。

さらに、常に電話が鳴るという現実を日々続けていると、ちょっとでも電話が鳴らないとすごい恐怖心が襲ってくるそうだ。なんとも気の毒というか、レストランをめぐる事情の不条理さ、情報を食べに行く客が先行するネット社会のいびつさに頭を抱えてしまう。

また、当日になって5名の予定が4人になったよという客も後をたたないという。こちらも、多めの席を確保してウェブやSNSのコミュニティ上で参加者を募るも集まらず、当日に人数が減ったことを告げるというパターンが想像され、ここにもネット社会の弊害を見る。そんなとき彼らは、「ああ、だったらもう一組入っていただくことができたのに・・・」と天を仰ぐそうだ。

いっぽう、その話を聞くことができて心からほっとした、とも言える。お客様からの電話をぞんざいに扱うことなく、満席に慢心することもなく、シェフやシェフソムリエ自ら、真摯に料理やワイン以外のことで悩み、仕組みを改めようとして模索のするさまを体感したからだ。

ぼくがレストランに電話して満席と断られたとき、本来断られることはとてもとても困るしつらいんだけど、断るほうがもっとつらいことは(上記の理由で)わかってるよ、みたいなことをぼそっと話したら、「そんな、伊藤さんのような方に気軽に来ていただける店になりたい・・・」との答えが返ってきた。

じゃ、今、予約を頼めますか、と喉元まででかかった(笑)んだけど、ぐっと押し戻した。そういったソワニエがおられるのかどうかは分からない。でもキリがないだろうし、またそんな彼らの悩みを聞いて自分の場所を特別にお願いする気持ちにはとてもならなかった。

でも、ラッキーにも、「何曜日の何時ぐらいが一番電話がならない」というホットな情報は聞くことができた。
一度その時間に予約をトライしてみるとしよう。彼らの働く姿を見るために。